朝7時半に宿をチェックアウトし、リクシャに乗って国境へ向かいます。
あっという間に、およそ15分で到着します。
それもそのはずアガルタラの町の中心から国境までは約4キロほどしかありません。
国境の周辺は建物などもほとんどなく、のどかな風景が広がります。
ここの国境はあまり外国人のツーリストは通らないようです。
台帳に名前やパスポートナンバーなどを記入する時に、今まで記帳された分を見ると、一週間に4、5名ほどしかいませんでした。
出入国手続きは、インド側のカスタムでたまに荷物からお金を抜かれるということもあると聞いていたのでちょっと心配していたのですが、そんなこともなくスムーズに終えることができました。
そして、やってきましたバングラデシュ。
と言ってもバングラデシュ側の国境も緑の田んぼが広がっているばかりです。
リクシャに乗り、列車の駅のあるアカウラの町まで出なければなりません。
リクシャの値段はガイドブックによると50タカ(約80円)が相場なようです。
国境にたまっているリクシャのおっちゃんたちに値段交渉してみます。
しかし、町までの交通手段はリクシャしかないため、外国人と見て100タカとふっかけてきます。
いくら粘っても80タカまでしか下がりません。
どうしようか妥協してしまおうかと迷っていると、突然横で様子を見ていたおっちゃんが割り込んできて、リクシャのおっちゃんたちに、お前らなにそんなに高い値段を言っているのだ、駅までなら30タカで十分だろと文句を言い始めます。
普通地元の人はこういった場合は旅行者の味方になってくれることはあまりありません。
僕は嬉しくありましたが、ちょっとびっくりしました。
そして、リクシャのおっちゃんたちとそのおっちゃんは、僕のことをそっちのけで激しく口論を始めます。
いったい僕はどうしたらいいのだ。
なぜだか僕がまぁまぁとなだめることになり、結局50タカを払うことになりました。
助けてくれたおっちゃんはそれでも30タカで行けるのにと憤慨していましたが、とにかくもともと僕が希望していた値段で行けることになったので良かったです。
おっちゃん、ありがとう。
アカウラの駅に着き今日の目的地であるクミッラまでの列車のチケットを購入します。
列車の出発時間までは45分ほど時間があったので、駅前にある小さな食堂に入り朝食を食べることにします。
しばらくすると僕の向かいの席にバングラデシュ人の男の人が座り話しかけてきました。
「こんにちは。日本人ですか?」と。
日本語です。
その人は、5年ほど前まで7年間日本で働いていたらしく、日本人である僕を見て懐かしく思い声をかけてきてくれたようなのです。
こんな小さな町で日本語を話せる人と出会えるとは思ってもいなかったので、僕もちょっと嬉しかったです。
これからクミッラに行くんだというような話をしていたら、列車がホームに入ってくるのが見えました。
時計を見ると10時15分。
僕の列車は10時半発なので、これが僕の列車であるはずがありません。
バングラデシュですから、遅れることはあっても早まることはないでしょう。
そう思って座っていると、他のバングラデシュ人と話していた日本語を話せる兄ちゃんが僕に「あれがあなたのクミッラ行きの列車です。早く行ってください。」と言ってくるのでした。
えっ、なんで?と思いつつも、慌てて荷物をつかみ、清算を済ませ、駅に向かい走り出したのでした。
そして、なんとかその列車に乗り込むことができたのでした。
ふ~間に合った~とほっとします。
しかし、なんで早く来たのであろう。
あっ、もしかして時差か。
そう、パキスタンはインドより時間が30分早いのでした。
すっかりそのことを確認し忘れていました。
危なかった~。
一時間ほどでクミッラの町に着き、駅近くの宿にチェックインしてさっそく町を歩いてみます。
するとたくさんの人に見られ、声をかけられ、こっちへ来いと呼ばれます。
バングラデシュ人はほとんど英語を話せないので、「どこの国だ?」「名前は?」ぐらいしか訊いてこないのですが、とりあえず話しかけてきます。
バングラデシュを旅したことがある人は、とにかく人に見られ話しかけられ続けると言います。
芸能人、有名人の気分を味わえると。
確かにその通りです。
もちろんこれまで旅した国でももの珍しそうに見られたり、話しかけられたりすることはありましたが、ここまで積極的にしてくる国はありませんでした。
でも、いろいろ話しかけられるのはけっして悪い気分ではありません。
地元の人と気軽に交流を持てることは楽しいことであります。
仏教遺跡に行くと英語を話せる大学生に話かけられその周辺を案内してもらったり、一緒にリクシャに乗った人からは家に招待されお菓子をご馳走になったりしました。
いや~おもしろい国です。
そうして、一日中声をかけられまくったのでした。
いつの間にか日も暮れ暗くなりました。
一日中歩き回ったのでくたくたに疲れ、お腹もぺこぺこになりました。
早くなにか食いたいと食堂に向かいます。
しかし、その途中やっぱり声をかけられます。
とりあえず軽く手を振り挨拶して通り過ぎようとしたのですが、その人はかなり強引でまあまあこっちへ来いと言って無理矢理イスに座らされます。
そして、流暢な英語で、俺はビジネスマンで日本のコマツやヒタチの製品を扱っているのだと熱く激しく語るのでした。
僕はお腹すいたなぁと思いつつ、うんうんとうなずくしかありません。
10分ほど話をしてようやく開放され、やっとのことで食堂にたどり着きました。
フィッシュカレーを注文します。
そして、料理がテーブルの上にひろげられ、さあ食おうと思った時、やはり向かいの席に若い男の子が座り、「どこの国?」と訊いてくるのでした‥‥。
なんとかお腹も満たされので、早くホテルに戻りシャワーを浴びてのんびりと寛ぎたいです。
今日は本当に疲れたのです。
ホテルの階段を上がり2階にある自分の部屋へ戻ります。
ホテルのレセプションの前には従業員らしき若者が数名たむろしています。
そして、彼らは僕を見つけると部屋の前までついてきて、やはり「どこの国?」「名前は?」と訊いてくるのです。
部屋のドアを開けて中に入ってもずっと話かけてきて、なかなかドアを閉めさせてはくれません。
もう疲れているからと言って、やっとのことでドアを閉めたのでした。
とりあえずベッドに腰掛けます。
ふ~とため息をつきます。
ここは僕のプライベートな空間。
やっと自分だけの時間を持つことができました。
一日でもこんなに疲れるのに、ずっと注目され続ける芸能人ってすごいなと感心してしまいます。
とりあえず今晩はシャワーを浴びゆっくり寝るとしよう。
トントン。
誰かがドアをノックします。
ドアを開けるとそこには先ほどの若い従業人たちと、50歳くらいのおっさんが立っていました。
そのおっさんは僕を見ると言ってきました。
「私は夜のホテルの責任者です。一晩中受付にいますので、何かありましたらお申し付け下さい。」
そして、「どこの国ですか?」と。
ああぁ、早く僕をひとりきりにさせてくれ~~。